2015年6月17日水曜日

小坂の滝 備忘録 椹谷 その2

昼食を終えいよいよ核心部への突入だ。気合を入れ直し回廊の滝の高巻きへ挑む。右岸の広いルンゼは登るとほどなく二股になる。全歩に見える岩溝が高さは低いが立っているように見えそれを避け中間の尾根場を登る事にした。結果的にこれが全ての判断ミスの始まりとなった。
左のルンゼは伏流したガレ沢の様相。上部は平にみえる気がする。尾根を登りきれないと判断しガレ沢へ降り詰めることに。しかしこれが悪い!ガラガラなうえ傾斜がありひとたび落石を落とそうものなら狭い谷底故、後続に直撃してしまう。神経を足先、指先に集中しながら”体重を殺して”登る。神経衰弱のようなデリケートな高巻きを終えやっとの思いで安定した尾根に乗り上げる事が出来た時の安堵感はたまらなかった。そこから山腹をすこしトラバースすると椹谷本流に落ちる滝の音がはるか下方からしている。とりあえずザックをデポして偵察に行く事に。ぐんぐん急斜度を下っていくと滝の音が轟音となって響いてくる。「これはかなりデカいやつがいるぞ」とイメージしながら下り続ける。途中木の枝で懸垂したりなんとか滝の見える位置まで来ると目の前には驚愕の光景が広がっていた。
20m前衛滝を筆頭にそれぞれが10m級の滝が奥行きを持って3段、狭い廊下の中水大水量を谷幅いっぱいの奔流となって落としていた。それは想像をはるかに超えた姿だった。「これはどうしたものか」右岸を見上げれば50mはあろうかという岩壁が谷を囲み、左岸はさらに高い絶壁を擁していた。これは一目瞭然。今来た道をもどりさらに3段の滝を越えるためにさらなる大高巻きを継続することが現状の打開策だった。さて、高度差50mをヘロヘロになりながらのぼり返す。ザックを回収し上で待つ二人に合流。しばし作戦会議ののち、高度を上げながらトラバースをすることにした。
まだまだ登る。滝壺から確認できたルンゼの頭辺りを横切るころには背丈の低いサワラやヒノキの密生地となった。枝がザックに絡まり思うように前に進めない。1段目の滝の頭辺りをトラバースするころ異変に気が付いた。「あの岩壁の上の株、妙に人工的な切り口じゃないか?」遠くに見えたのは間違いなく切り株だった。しかしなぜこんなところに・・・。密な藪(樹林)の中をかき分けながらの苦しいトラバースを続けている最中また切り株を発見した。しかもそこかしこに。かなり年数はたっているもののこれは斧や手ノコの仕事ではなさそうだ。チェーンソーによる伐採後であることは疑いなかった。
このやぶは伐採の後植栽されずに天然更新された樹林帯のため密生していることが分かった。しかしよこもまあこんなところまで刈り込んだもんだ。今僕たちがとりついている角助山の山頂から山体全体が切り尽くされているのだろう。容易にそんな想像ができた。切り株たちの在りし日の姿を想像するにここもまた谷合の立派な天然林だったろうに・・・。隣を流れる兵衛谷との大きな差はこの谷合の林層なのかもしれない。雰囲気が全然違う。兵衛谷のそれは巨木立ち並ぶ原始の森。このように差があるものかと思う。
さてそんなノスタルジーに浸ったのも一瞬。現実は藪の中。まだまだ滝を巻ききれていないわけです。次第に日照が良くなりシャクナゲが藪の中に表れ始めた。このシャクナゲもたちが悪い!えだは固く、幹はぐねぐね。絡まるんもなんのって。思わずK山氏の口から「獣もこんな藪通らんわ」半分やけくそになりながら突破していく。3段目をおよそ巻き終えたあたりで対岸を見ると支流のツガ谷から落ちる滝が見えている。そろそろ下降を開始せねばということで藪を下方へ谷の様子を見る事に。数メートル先で足元が切れ落ちているが谷底は確認できない。懸垂下降も危険な状況であると判断しまたのぼり返す。途中降りられそうな尾根は一か所しかない。その尾根にわずかな望みを託しながら深まる藪を無心で掻き分け進んでいく。目標の尾根にたどり着き下降を開始。望は通じたのか何とか谷底に降りることができた。それにしてもとんでもなく長~い高巻きだった。
時刻を確認し、出発時間から差し引くと2時間!距離にして水平距離200m程度しか進んでいないのにもかかわらずこの時間って。中流部のゴルジュ帯これにて完了!あとはもう平坦な道をだらだらいくだけだと完全に気が抜けていた。しかしそうは問屋が卸さない。
わずか5分。なんということでしょう。20m大滝が(泣)もういいです。おなかいっぱいです。かんべんしてください。正直そんな感じでした。しかし対峙した滝の形は非常に美しく今までにあまりお目にかかったことが無いような形状だった。写真では伝わりにくいが斜めに立てかけた板の上に水を落としたような立体的な水流の異形滝だった。高巻きはやはり大きく巻くしかないかと思いながらも推薦に近いラインどりで多少の急登も混ぜながら高度を上げると落ち口ぴったりにコンパクトに巻く事が出来た。高巻きもだいぶ慣れたようだ。しかしもう大滝は勘弁です。その願いが通じたのか渓相は明るく開け穏やかになった。癒されながら歩みを進めると今日最後の滝が現れた。しかしその滝は今までの滝とは違い優しく穏やかなものだった。あ~やっとたどり着いた。これで今日の宿に着いたぞ。安堵感は半端無い!テン場は川のほとりを選びそれぞれ犬小屋を設営。夕食を済ませてもまだまだ明るい空だったが眠気に誘われてそのまま眠りにつく。明日の冒険はいかに・・・。

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