2015年10月30日金曜日

伝えたいこと

休みという概念はこの仕事を始めてから無くなっていた。
ツアーがひと段落する秋にはある程度時間に余裕ができ、先日は休日らしい休日を過ごした。
充てられる時間は全て子供のために。これは理解ある嫁さんとの約束でもある。
てなわけで僕の休日はもっぱら子供のためにある。
この日は天気は良くないけど下呂と小坂の町境にある観音峠へ行ってみることに。
自分自身約2年ぶり。いきしにreenhousecoffeではコーヒーを仕入に立ち寄るFBこちら↓。
ゆうくんお勧めのコスタリカコーヒー(ブラックハニー)をチョイス。https://www.facebook.com/coffeemidorinoyakata/?fref=ts
 
 高曇りだけど遠くまで見える。小さいころ親父に連れてこられてから20年くらいたつな~。
名古屋まで見える場所が小坂にあるなんてビックリと小さいながら思ったことを思い出す。
まだ3歳のわが子にはあまり理解できなかったようだが何となく山深いことは伝わったみたい。
 もうひとつ伝えたい事、外で飲むコーヒーはうまい!ということ。
とはいえ子供はもちろんコーヒー飲めないのでピカチュウラーメン。ラーメンもうまいんです!
シングルバーナーで湯を沸かしコッヘルに湯を注ぐだけ。
以前乗鞍に連れて行った時にも暴風のなかラーメンを食べて鼻水を垂らしながら「おいちーね」と言ってほほ笑むわが子。
今日もあい変わらず「おいちーね」3歳にして外メシのうまさを知っています。
観音峠でラーメンと珈琲を満喫し一路帰宅の途へ着く。小坂へと下る道は未舗装のがたがた道。
子供はこんなオフロードが好きなようで終始ご機嫌。小坂の中でもこの鹿山筋谷沿いの紅葉は秀逸で今回は少しピークを外したものの色鮮やかな世界が美しかった。
 
結局休日も小坂で過ごしている。小さな町です。でもいろんな場所や顔があることを僕は知っている。そのすべてを伝える事はできないけど僕の知っている限りの事は伝えたいと思っている。
特に我が子には。彼が好きになるかどうかは分からない。
もしかしたら連れまわし過ぎて嫌いになっちゃうかもしれない。
でも自分がそうであったように幼いころに見た景色・感じた風・においや感覚は全て今の自分を作るベースになっている。
そのベースはやっぱりこの小坂の風土でありそこで積み重ねた経験だ。
こどもにあまり多くは望まない。ただこの小坂でベースを作ってもらいたい。
その土台づくりに必要な情報は伝えたい。
伝えたい事まだまだあります。休日増やさなかんね。

2015年10月28日水曜日

白州・森薫るハイボールの日

今日は夕方より関市にて、みのハイキングクラブさんの定例会で小坂の滝めぐりの紹介をするチャンスを頂きセールスさせて頂きました。てなわけでガイドのみならず出張説明会も随時受付中です!旅費実費負担いただければどこでも参ります。最近ではヤンゴンからのオファーを待っています。

帰り道、月明かりが明るいのに気が付きました。ひと月前だったかな、スーパームーンは。そんなことを考えているとふと「森薫るハイボール・白州」の事が頭をよぎりました。
白州といえば・・・・そうか一か月前の今日は黄連谷遡行してたっけ。ちょうど前夜祭に呑んだ白州ハイボールの薫りが恋しくなっていたころ。

てなわけで家路の途中でコンビニに立ちより晩酌用に白州ハイボールセットを購入。コンビニでも買える思い出。どうなんかな・・・。
家に帰り白州専用ショットグラスでミニマムなハイボールをちびちびやる。「お~これこれ!」と独りほくそ笑む。


グラスを進めるごとに思い出がよみがえってくる。備忘録にも書いていないことをあれこれと思いだした。

出発の準備をしていたら「RUNですか!?」って聞かれて「RUNです!」って言えなかった悔しさや、実はどうでもいいところでヤマピが滑って肘を脱臼し本気でヤバイと思ったこと、下山後の入浴後パンツを忘れた事に気づきノーパンで爽快に帰ったことなどなど。

うん。ほんとどうでもいいことばかり思い出します。どんな山行もだいたいこんなどうでもいい思い出がきっかけで色々出てくるんですけどね。

毎月28日は白州・森薫るハイボールの日とします。ただ呑みたいだけだよね。

2015年10月23日金曜日

秋の沢登。

夏の間大いににぎわった小坂の沢登http://www.osaka-taki.com/tour_info/sawanobori/index.html
 
9月14日を最後にしばらく足が遠のいていた。本格的な紅葉の時期に今年のお礼&最後のお別れ方々沢に行ってきました。
 
秋晴れの中落ち葉浮く渓谷でひさびさの水泳。しびれる水温だがなんだか心地よい。大滝でお神酒を奉納し一年の感謝をささげる。その後は滝上から滝壺渡るチロリアン張って滑空実験。まだまだ改良は必要だけど、うん。遊び方は無限大だ!!
 
帰りはドボンドボン飛び込みまくって帰ったのでキンキンに冷えたけど水から上るとなんだかなごり惜しい気がした。やっぱ好きです沢登。
来年は10月までやるぞ~。遊びに行く間がますますなくなるな~。来年までさらば!沢登。

2015年10月17日土曜日

小坂の滝 兵衛谷完全遡行編 最終章

長い年月この日が来るのを待っていたような気がする。日頃慣れ親しんだ小坂川。幼いころにふと抱いた感情。この水はいったいどこから流れてくるのだろう。その答えはここにあった。

ここは月か、火星か・・・。そこには非日常の風景が広がっていた。無機質な荒涼とした砂漠か、異星の地に降り立ったかのような光景の中に青空が映える。

源頭部付近の渓相



2750m兵衛谷最初の滝にして遡行最後の滝。落差10m程度の直瀑。今にも涸れそう、またはこの標高でこれだけの水量。両方の表現が出来るだろう。(あまりにも感動して写真すらとっていない)

この滝を最後に兵衛谷は谷ではなく湿原に変化した。岩間を滔々と流れる細い水音。傾斜もわからぬほどなだらかなその源流帯に立つとそこは霧の中だった。

賽の河原と呼ばれるその場所は三途の川のほとり。無数のケルンがたちならびまさに魂の集まる場所。辺りを包む霧も助けて幻想的な雰囲気だ。

賽の河原へ詰め上げた


左右の果てが分からない広い平原をコンパス頼みに方角を決め歩き出す。奇跡的にも迷う事もなく、ほどなく踏み跡と合流した。紛れもない御嶽登山道である。

この瞬間に唐突にも僕たちの兵衛谷遡行は終わりを告げた。ただ今は余韻に浸ることなくとにかく下山することに頭が回っている。
賽の河原から摩利支天乗越を越え五の池小屋へ。さすがにヘロヘロなのでしばし小休止。
主のI川氏は今日も不在。僕たちが遡行するときはいつも入れ違いのようだ。

泊まっていきたいほどの快適な山小屋だが後ろ髪ひかれつつ出発。下山途中8合目を過ぎた辺りでI川氏に出合う。歩荷のようだ。シーズン中何度も山頂と下界を往復する彼の体力と根性には脱帽だ。

通いなれた御嶽登山道は高速道路のよう。すたすた降りてあっという間に登山口に飛び出した。
ここに僕たちの兵衛谷完全遡行は貫徹した。濁河温泉市営露天風呂につかりながらようやく余韻に浸る。

見慣れた三の池


2日間ともに10時間を越える奮闘に体はボロボロ。温泉から上がり根尾滝駐車場にデポった車を回収すべく下界向けてドライブ。約1時間ドライブで根尾滝駐車場に到着。久しぶりに車から降りると姿勢が固まっておりガチガチに!やっとの思い(?)で車を回収し帰路へつく。

ここから先の事は正直あまり覚えていない。というか遡行を終了した今どうでもよい。

長い年月を費やした兵衛谷完全遡行への道。そして駆け足で駆け抜けた2日間の完全遡行。全てが年輪となって僕たちの魂に刻み込まれていく。そんな魂の遡行。これぞ兵衛魂。
(※ちなみに相棒のK山師の鉈には”兵衛魂”の銘が刻印されている。)

この先こんな魂の遡行をいくつ繰り返すのか。分からない。その度に小坂の瀧魂のしわは増え厚みが増して行くのだと思う。僕のライフワーク。これからも小坂の山・谷(たまに浮気して他のエリアも歩くけど)を歩きまわりまだ見ぬ”魂の記憶”を探して冒険を続ける事でしょう!まだまだ奥が深い!だからやめられない小坂の谷。

小坂の瀧魂。まだまだ発信し続けます。命ある限りですけどね。


2015年10月13日火曜日

小坂の滝 兵衛谷完全遡行編 その3

御嶽山の噴火以来、兵衛の源流域への懐古心が強くなっている。兵衛谷の源頭は現在入山規制エリア内にあるため立ち入る事が禁止されている。ただ二度と行けない場所ではない。いつか規制解除の暁には必ずもう一度訪れたいと思っている。兵衛の最初の一滴を求めて再び・・・。



兵衛谷遡行2日目は標高1600m付近からのスタート。今日は標高2800mのサイの河原まで一気に1200m高度を上げるハードな工程。早朝6時早めの出発を切る。
兵衛谷大橋上流は再び発達した溶岩流のゴルジュ。水線に執着し泳ぎを交えた突破も想定できるが右岸の草付をトラバースした方が随分と早い。時間を優先する僕たちはもちろんトラバースを選択。一気にゴルジュ帯を通過する。


ゴルジュ最後の大釜5m滝を左岸より直登すると渓相は穏やかになる。いくつかの小滝と渡渉を繰り返しながら上流に進むと長沢との出合に5m滝がかかる。過去にK山氏はこの滝の上で尺イワナを釣り上げている。標高は1800mこんなところにも立派なイワナが住み着いているのが驚きだ。
ここからは美形滝のオンパレード。中でも5m程度の斜瀑は際立って美しく僕のお気に入りの滝の一つだ。


右岸岩壁より噴出した白い滝(10m)を越えるとほどなくシン谷・尺ナンズ谷の二股に出る。
この二股にはそれぞれシン滝(40m)、尺ナンズ滝(30m)が懸る。ふたつをまとめてパノラマの滝と称する。兵衛谷はここで名前を変え本流であるシン谷に進路を取る。
シン滝40mは大高巻だ。右岸より急登し壁がたったところにうまくトラバースする踏み跡がある。それを辿り滝落ち口ピタリに出る事が出来る。この先百間滝までは直登できる滝ばかり。楽しいシャワークライミングでガシガシ高度を稼ぐ。



百間滝(50m)何度訪れても圧巻だ。僕自身この滝より上は未体験ゾーン。K山氏にとっても初の百モ間滝との対面だった。
そのスケールの大きさにしばし見とれてしまうがこれを越えなければ前には進めない。右岸は絶壁。どう見ても高巻きラインは左岸だ。滝もデカイだけに高巻きもデカかった。登れそうな斜面を岩壁向けて斜上。岩壁基部をトラバースするが途中ガレガレの気持ち悪いトラバースがある。慎重にわたり何とか高巻きに成功。標高2000mを過ぎての大高巻きは気力も体力もそぎ落とす。


百間滝の上にも間髪入れず20mほどの直瀑が。こちらは踏み跡をたどり右岸より高巻いた。
谷はいつの間にかガレガレのゴロゴロ。ふんずけると動き出す新しい転石で埋められた急な谷底をひいひいいいながら登る。感覚的には沢登というよりか登山に近い。なが~いゴーロを気が滅入るほど歩いていると突如として10m滝が眼前に現れた。しかもその滝を前衛として多段の滝を擁する絶壁が行く手をふさいだ。


さぁてどう超えるか・・・。とりあえず一段ずつこなしていくしか手はなさそうだ。最初の10m滝は左岸のガレルンゼを詰めると意外と簡単に落ち口に出られる。そこに待ち受ける10m滝は美形!
縞模様の岩壁に筒状を落ちる一文字滝。しかも滝壺は透明度の高いブルー。標高2300m付近でこのような美しい滝に出会えるとは・・・。感無量。しかしながらここはかなり急峻な場所。巻道を探すとかなり立ったルンゼの中に弱点を見出す。とはいえ一部垂直に近い部分もある。ダケカンバの幹をつかみながらモンキークライムで上がる。標高が高いので無論息切れ。”ほうほうのてい”で巻き上がりへたり込む。ほんとしんどいです。高巻き。


ヘロヘロになりながら垂直ゴルジュともいうべき多段30mを越えるとまたもや延々と続くゴーロ帯。急傾斜のゴーロ歩きは見た目以上に体力を奪われる。昨日からの蓄積された疲労も助けペースは上がらない。しばらく歩き続けると眼前に岩壁が。壁か、滝か・・・。いずれにせよ厄介な代物に間違いない。だんだん距離を縮めていくとそれが滝であることが分かった。神津の滝。まさにその滝だった。


写真集でしか見たことが無い、生で見たい滝のひとつであった神津の滝。今目の前にその滝が現れた。疲れた体に感動で電撃が走る!サイコー!!たぶんアイドルファンが握手会に参加して本人と握手した時と同じ感覚(?)なのかもしらない。

しかしアイドルのように優しくはないのが自然の掟。森林限界付近という事もあり背の低いブッシュに悪戦苦闘しながら巻き上がる。途中対岸を望むと今にも動き出しそうな荒々しい岩壁が。ここはまだまだ”若い”地層。変化の激しさが肌に感じられる。


神津の滝を高巻いてもまだまだ終わらない。前方にはまたも岩壁が・・・。もう高巻きは勘弁!と思いきや近づいてみるとなんとか登れそうな傾斜。取りついて見れば簡単に登る事の出来る多段の滝。この標高で果敢にもシャワークライミングに挑戦。冷たい谷風が吹きあがるがそれすらも心地よく感じる。クライマーズハイか(?)


ふと周りを見渡すと火星のような様相になってきた(火星は行ったことない)いよいよ源頭は近い。
ガレガレのほとんど伏流した谷筋を半ば無心で歩き続けると青空に左右を覆っていた背の高い岩盤が交互に交わり途切れるのが見えた。その交点には紛れもない滝がかかっていた。これが世にいう日本最高所の滝か!!

今日はここで止め!最終章にこうご期待♪



2015年10月12日月曜日

小坂の滝 兵衛谷完全遡行編 その2

自分の中では兵衛谷の流域はおもに4つのパートがあると考えている。濁河川出合から吸口滝までのイントロ的下流部。続いて石楠花沢出合までの溶岩流の美しい渓相が特徴的な中流部前半。材木滝までの大滝を主体とした豪瀑帯の中流部後半。一気に垂直距離を上げ変化の激しい上流部から源流帯。この変化をいっぺんに楽しむことに完全遡行の楽しみがあるのです。

そんな中で僕自身大好きな場所があります。それがここから始まるしょうけ滝下流部のゴルジュ帯。吸口滝を越えゴーロを歩くとほどなく岩質ががらっっと変化した事に気が付く。黒く滑らかな曲線を描き側面から覆いかぶさるように溶岩の壁が迫って来る。だんだんと狭まり半ドーム状になったその先には底知れぬ漆黒の大淵が広がり奥に小滝が落ちている事が確認できる。

昼なお日が差さぬ急峻な地形にあって、更に覆いかぶさる溶岩の黒い壁の威圧感も助けてなんとも不気味な場所。漆黒の大釜を泳ぐには勇気が要るが恐怖心を抑え込みながら小滝のヘリに取りつき這い上がった。

兵衛の胃袋に突入
ここから始まる渓相はまさに”異次元”。谷は極端に狭まり細いグネグネの水路はまさに”胃袋”の様だった。そう僕たちは”兵衛の胃袋”に入ってきたのだ。度重なる泳ぎのために完全装備はしていたものの寒さが堪えるようになっていた。とはいえまだまだゴルジュは終わらない。

滝の無い滝壺、独立岩峰、箱滝などの美観を経て兵衛谷最峡部を通過。ここは両手で突っ張れるほどの谷幅。水圧を避けて小巻する。すると間もなく中流部ゴルジュの出口に鎮座するボス、しょうけ滝(2段20m)が現れる。しかし巻道は明瞭で左岸の五徳岩と呼ばれる岩くつを潜り抜け滝上部に出る。ここで一気に谷は開け開放的な広々とした空間となる。泊まっていきたいロケーションだがまだまだ前に進む。

兵衛谷最狭部
しょうけ滝
しばらくは平凡なゴーロ帯を進むとこの谷名物の”出口の無い扇滝”に出会う。溶岩の下を水がくぐりサイフォンの様になって石橋の外に湧き上がっている。絶対落ちたくない滝のため左岸を慎重に登って越えていく。

ほどなく兵衛谷取水堰堤。正面突破をもくろみフリクションで登る。しかし上部に手がかりもなくずるずる滑り落ちる。ここは無難に。堰堤は右巻きで難なくクリア。ここからは兵衛谷本来の水量を取り戻す。溶岩流のナメ床も優美なものではなく大水量ドバドバの”暴れナメ”。渡渉も若干デリケートになる。出発から6時間経過する頃足取りも重くなってきた。ここから始まる大滝群を前に大休止をとる。ここまででも随分と変化に富んだ素晴らしい遡行で満足気味だが僕たちの目標はあくまで完全遡行。兵衛谷最初の一滴を見ない事には終われない。1泊2日で抜けるためには今日中に少なくとも材木滝くらいまでは歩みを進めておきたい。

出口の無い扇滝
さて昼食もさっと済まし遡行再開である。水圧の強い渡渉を繰り返しゴーロ帯を進んでいくと石楠花沢を右に分け間もなく2段の滝が行く手をふさぐ。泳いで突破もいいのだが体力の消耗を避け右岸から小巻することに。泳いで突破した方が早いだろうが高巻きも5分程度で完了したので良しとしよう。二段の滝上の廊下は妙に魚影が濃い。ドンつまりには大きな釜を持つ通称”魚止滝”なるほど魚止めというだけあって魚がたまるのかな?そう思いながらも悠長に竿を出している場合でもないのでこちらも左岸を小巻して滝上に立つ。


大きな釜を持つ魚止滝
この魚止めを皮切りに大滝の競演が始まった。先ずは怒涛の大水量を一文字に垂直に落とす吹上滝(25m)滝の前の岩盤に水流がぶち当たり直角に曲がる。そのためものすごい勢いのしぶきが吹き上げられている。この滝も比較的コンパクトに左岸を高巻き。NPOのルート工作のおかげで楽ちんだ。吹上滝上部にもナメが続き5~6mほどの幅の広い滝×深い滝壺のセットが連続する。どれも容易に突破できるが滝が連続するため疲れた体には堪える。


ドバドバー!吹上滝
目の前の景色が再び狭くなり左右の側壁が高くそそり立つと最後の大滝の連瀑帯に差し掛かる。前衛の屏風滝(30m)は文字通り屏風のような岩盤が滝を取り囲み容易に寄せ付けない威圧感を持った滝だ。この高巻きはちと癖がある。左岸のザレ状より巻き上がり屏風の岩壁上部に出る。スリップに注意を払いながら絶壁すれすれを絶妙についた踏み跡をたどるとほどなく岩折滝と屏風滝を分ける痩せ尾根に乗り上げる。さすがにこの高巻きはしんどかった・・・。
サコ状を下ると岩折滝。しかし観瀑するために降りる気力も無くそのままの高度を維持しまとめて高巻することに。途中足元に岩折れた木を見ながらきわどい(泥壁の立った)トラバースをこなし岩折滝落口ぴったりに巻く事が出来た。全ての高巻きを終えて所要時間は1時間。これでもかなりコンパクトに巻けたのではないかと思う。

屏風滝は遠望し高巻き

さぁここからは気力勝負。目標の材木滝までは距離にしたら3km足らず。魚還滝(13m)を左岸より巻き越えると眼前に巨大な石橋が出現した。兵衛谷の盟主・龍門の滝だった。昇り竜の腹の下を滝が流れ落ちる奇観。溶岩の谷ならではの光景だ。泳ぐのが嫌なので直登ラインははパス。左岸よりコンパクトに巻いた。間髪入れず袴滝(20m)この滝の大高巻きはぼくらをヘロヘロにさせた。もはや無言である。大釜の滝などナメの美しさに見とれる間もなく黙々と歩く。

盟主・龍門の滝(15m)
ようやくたどり着いた材木滝。この時点で17時過ぎ。通常の遡行ならとっくに行動終了している時間帯にも関わらず僕らは今夜の宿を求めてさまよい歩いていた。日も暮れ薄暗くなった樹林帯を疲れ切ってとぼとぼと歩く。もはや気力も尽きかけている。そんな時目の前に大きな人工物が現れた。兵衛谷大橋である。と同時にもうダメ。完全に集中力が切れました。今夜の宿は迷わず即決。ここで終わりにしよう!

幅広い堰堤上の材木滝

長かった一日目の遡行は終了。さっさとテントを設営し湧水で米を研ぐ。米が炊けたらケイチャンだ。荷物の軽量化も重要だが明日への活力がもっと重要。沢では生米から炊く米が特にうまい!ケイチャンも重いが持ってきた甲斐があったもんだ。わずかな焼酎でも十分。疲労困憊でこの日は瞬殺。夕飯も早々にシュラフにもぐりこみ深い眠りに就いた。明日は強以上に過酷な試練が待っているだろう・・・。明日は明日の風が吹くさ。

つづく。

2015年10月11日日曜日

小坂の滝 兵衛谷完全遡行編 その1

近年恒例となっている秋の遠征を終えその余韻も長引きましたがようやく抜け出せそうです。
黄連谷への挑戦は自分の限界と思っていたボーダーラインを越えたそんなブレイクスルー体験を与えてくれました。顧みて過去にもそんな経験がいくつもあったな。小坂では兵衛谷にずいぶん鍛えられました。この機会に今日は兵衛谷についてお話ししましょう。兵衛谷には人生半ばにしてすでにかなりの”情熱と時間”を費やし、思い入れの深い場所となっています。ゆえに3部編成でおさまるかな・・・。それでははじまりはじまり~。

これから始まる冒険の舞台


兵衛谷は小坂の谷の中でも特別な場所です。下流部の陰鬱なゴルジュ帯、中流部の絶壁に囲まれた大滝の迷路、上流部の荒涼とした地獄のような景観、詰め上りのお花畑など変化に富んだバラエティー豊かな谷なのです。僕にとってはただの谷(場所)ではなくもはや”師”のような存在です。幾度となくその懐深く抱かれ、試練を与えられ、越えていく。そんな修行(?)を経験させてもらいました。ただほとんどはパートを切り取っての日帰り遡行。完全遡行の機会を探りながら月日は過ぎていった。
2013年ようやく完全遡行決行のチャンスがやってきた。相棒は沢を始めたころからの同志K山氏。7月の後半、遡行適期に半ば無理やり日程を合わせその日に臨んだ。

AM4時一年で最も日が長い季節だけにすでに白みかけている。挑戦の朝は何ともすがすがしく晴れやかな気分で始まった。早々に準備と簡単な朝食を済ませ待ち合わせ場所である濁河登山口へ車を走らせる。途中御嶽パノラマラインのシークレット(今は公になっているが)展望スポットに停車。車を降りてガードレールを乗り越えればそこは天空に突き出した桟橋。気持ちのいい(高所恐怖症の人には気持ち悪い)場所だ。正面には黒い大きな山体の御嶽山を望む。眼下には底知れぬ深い谷が見える。「この谷を歩いてあの山のてっぺんまで行くのか~」これから始まる挑戦に武者震いした。よっしゃ気合入ったぞ!車に乗り込みだれも通行していない早朝の山道を集合場所めがけてかっ飛ばす。

AM5時濁河登山口に到着するとK山氏のジムニーを発見。東京から前夜入りして仮眠しているのを起こすと、どうやら寒さであまり眠れなかったようだ。夏とはいえ外気温は10℃程度。車中泊でも暖房が欲しいくらいの気温だった。いつものように作戦会議しながら準備に入る。天気予報を見ると今夜は雨。明日も曇りの予報だった。3日目は雨か曇りか・・・。今回の遡行、あまり天気には恵まれそうにない。それならばということで当初はがんだて公園より遡行開始し賽の河原まで2泊3日で抜ける予定をしていた。しかし今回は天候の悪い事を理由に1泊2日で抜けてしまおう!ということに。この時点でがんだて公園より濁河本谷を遡行し兵衛谷を遡行するプランから3km4時間を省略するために根尾滝遊歩道より直接兵衛谷に入渓する選択を取った。とはいえ2泊欲しい距離。(総行程約23km)それを1泊でこなすにはスピーディーに切り抜けなければならない。すなわち荷物も大幅に軽減が必要だ。あれはいらん、これはいらん。時間ももったいないのでサクサク選別。しかしこればかりは悩んだ。

僕:「ビール2缶どうする?」K山氏「うん無しで行こう」、僕「・・・」仕方ありません。完全遡行のためならば!(泣)ってちゃっかり焼酎は200ml持って行ったけどね。

濁河登山口・概ね10kg以下の荷物に軽量化!

準備を済ませいざ出発。登山口に1台デポしもう1台で出発地点である根尾滝駐車場を目指す。時刻は6時過ぎ。御嶽山より朝日が昇る。陽の光に照らされ体温も闘志もテンションもあがって来た!根尾滝駐車場にはAM7時には到着。沢装備に身を包みハーネス装着。ジャラ類もぶらさげ(使わないけどね)最後はライジャケをリュックにくくりつけ完成!そう。この谷ではスピードを重視するとき泳ぎは必須課題なのです。積極的に泳ぐことで高巻きを省略し最短距離で進むことができる。ライジャケは浮力があり保温効果もあるためサイコーに頼りになる道具だ。さて、通いなれた根尾滝遊歩道を谷底向けてガンガン下る。谷音が近づくにつれ鼓動も高鳴る。心地良い緊張感だ。

いざ入渓。兵衛谷出合。初めてこの場所に立った時の緊張感が蘇る。それは今回よりもずっと前の事。良く晴れた6月・早春のころ初めて遡行した。その時兵衛谷に入って最初に登場したわずか5mの滝に完全に敗退し来た道を戻った。あの時味わった敗北感。そこに当時の僕のボーダーラインがあった。その後同じ滝に何度も挑戦した。時には大高巻したり、時には懸垂下降したり。単一の滝で最も触れ合いいつまでも慣れないそんな”異様”な雰囲気を持つ滝がある。

最初の関門は鬼門のようなゴルジュ。

歩きはじめは明るいゴーロ。1時間ほど歩くと左岸よりシャワー状の10m滝が現れる。この先次第に谷幅が狭まり”核心”に向かう。ここからは上流はほん核的な沢登。一旦入ったら出られない(?)迷宮の入口。谷が左にぐいっと曲がると突如として側壁がせり上がりゴルジュの様そうを呈する。バンドを辿り行きつく先が例の関門5m滝。やっぱりいつきても慣れない。どくとくの威圧感をもつその空間。しかし今回はフル装備で正面突破する気でいるから問題ない。バンドより水面までは2mほど。水深が目測できないほど深く蒼黒い。門のようなゴルジュの出口は懸垂で着水そのまま降りて滝身に取りつく。そのまま流心をひとまたぎし滝身すぐ右岸を直登するのが直登ライン。

ゴルジュ手前の支流の滝



気合十分。補助ロープを出しリードで入水。深い滝壺での泳ぎはいつもぞっとする。距離にしてわずか2m程度の泳ぎだが冷たい水温に一気に体はこう直する。滝身の少し右、岩盤に水中から這い上がる際の体の重いこと!水を大量に含み冷えた体、それに加えつるつる滑る岩肌に神経をすり減らしながら気合で乗り込む。脈が早打ちして若干息が上がったようになる。「あ~快感!」この少し焦る、緊張感。たまりません!ここからは冷静沈着に。後続の貝山氏も這い上がったことを確認しロープを回収。束ねて肩にに掛け、そのまま滝を登攀。右岸は階段上で見た目以上に簡単に登ることができた。

最初の関門・2条CS5m滝は右岸を直登


関門を突破し”兵衛の懐”に潜り込むことに成功した。ここからが本番だ。間髪入れず淵が現れる。もう迷いはない。躊躇することなく泳いで突破。10m程度の泳ぎもライジャケのおかげで楽勝!その後も谷幅は広がる事なく側壁は威圧感はないものの高く谷の深さを感じる。ほどなく地形図にも名前が載っている曲滝(20m)に到着。初めて訪れたのは1年前。写真集・小坂の瀧の最初に登場する滝。「この滝生で見てみたいな~」と思っていた滝を目の前に感無量だったことを思い出した。またも感動している自分に気が付く。やはりいつ見ても素晴らしい。愛でながらも目線は高巻きラインを探っている。滝壺より下流右岸の草付に明瞭な踏み跡有り。上部は少し立っているものの問題はない。滝を取り巻く岩盤の際をコンパクトに巻き上がり落ち口すぐのところに降りることができた。
曲滝を遠望
泳いで突破
しばらく進むと谷はギュッと圧縮され2段の滝となって行く手をふさいでいる。吸口滝である。前衛の3m滝を右岸の岩壁を巻き落ち口に立つ。ここが小核心。ボロボロの残置ロープが垂れ下がっているものの、その姿は「僕君たちの体重を支えてあげられる地震が無いんだな」って言っているよう。そもそも支点のハーケンも効いてんだか。取り合えずフリーで抜けられるか試登。見た目はツルツルで登れそうもないが適度なガバとスタンスがつながり最後はラバーソールのフリクションでバンドに乗りあがる事が出来た。
吸口滝1段目

二段目落ち口より下流を望む。左岸のフェースを登る。


まだまだ側壁は高く人智の及ばなぬ絶壁に守られ両岸の急峻な尾根には原始のままの森が残っている。この巨大な谷に人間のなんと小さなことか。深山幽谷、まさにぼくたちはその真っただ中にいるのだ。

その2につづく。

2015年10月4日日曜日

2015.9.28-30甲斐駒ケ岳・尾白川黄連谷右俣 【記録集】

備忘録とは別に詳細な行程を記録として残しておくこととしよう。

【1日目】日向山登山口から黄連谷右俣出合上流まで

AM5時起床(道の駅白州にて前日車中泊)。車で5分移動し竹宇駒ケ岳神社へ1台デポし日向山(ひなたやま)登山口(矢立岩)先のゲート手前に駐車。ここまで10分程度。舗装された林道だが幅は狭し。紅葉シーズンということもあり非常に駐車場は混み合っている。

錦滝
AM7:35林道前より出発。AM8:05錦滝四阿に到着。ここまで日向山登山道出合。ここから第二ゲートを越え上流を目指しAM8:40林道終点に到着。ここまで約1時間の道のり。林道はところどころ崩落。危険な場所もある。

終盤にトンネルが連続。3個通過する。


林道終点。折口はさらに奥。


ルートがFIXによって示される。かなり急傾斜。
林道終点よりFIX伝いに下降しAM8:56尾白川に入渓。沢支度を済ませ出発。ここから黄連谷出合いまでは概ね直登可能な滝ばかりだが遠見滝の高巻きには注意が必要だ。

入渓して最初に現れる小滝とはいえ釜が深く黄緑色が印象的


AM9:22 夫婦滝目測10mは右岸よりフリクションを効かせて登る。残置支点もあるが確保不要。


AM9:33 梯子滝は多段15m程度。滝壺右岸を飛び石で渡りあとは階段上で楽。
すぐ上にあるとんでもない深い釜を持つ5m滝は這い上がりが若干難しい。


 AM9:44-10:23 遠見滝(4段約40mくらい)右岸を高巻いた


高巻きの途中バンドに追いやられ残置スリングのある木にロープを直接かけ5m懸垂で2段目落ち口に降りる


3段目を右岸より高巻き。途中テラスより4段目を観瀑。落ち口ぴったりに降りることができる。
遠見滝の高巻きは概ね明瞭な踏み跡、残置ロープなどがありおせっかいなくらい。


AM10:42 花岩と呼ばれる左岸の岩壁


花岩直下の噴水滝はスラブ状で登れる。なおもスラブ滝が連続する。


AM11:05 獅子岩。左岸100m上部にある。


獅子岩直下の小滝
AM11:26黄連谷と本谷の二股にて大休止。昼食をとる。10月になるというのにとにかく暑い。水の冷たさが逆に心地よい。この時期の遡行としてはかなり気温が高く恵まれた遡行となった。
PM12:07出発し黄連谷の遡行。千丈の滝、坊主滝などの大滝を擁し高巻きに時間がかかる。左俣・右俣の出合には13:48に到着した。右俣出合の3段15m滝が本日の核心。傾斜はあるがフリーで水線際を直登できる。万全を期すのであれば確保したほうが安全な場所だった。この日は右俣に入ったすぐの場所少々ガレは気になるが薪も豊富にあることから標高1900m地点でテン泊。13:53早めの行動終了とした。この時すでに谷底は日が暮れている。

黄連谷入ってすぐの10m弱の滝。右岸のトラロープがラインに見えてしまうがさらに上をトラバると楽。


PM12:35-13:00 千丈の滝4段60m1段目の滝下にBDの割れたヘルメットがあった。
左岸より2段目に立ち、そこからは左岸を明瞭な巻道を辿り最上段落ち口ピタリに降りる。
そこにはアイスアックスが残置されていて対岸を望むといわゆるテンバ適地が目に付く。


坊主の滝とルンゼを遠望


PM1:04 坊主の滝40mくらいか。左岸のルンゼより巻く。


踏み跡は明瞭で高巻き過ぎないように注意して進むと落ち口ピタリで降りられる。


右俣・左俣出合のスラブは滑りそうで意外と怖い。


初日の核心・右俣出合の滝


テン場は薪が豊富。でも落石が怖い。
【2日目】黄連谷右俣から甲斐駒山頂を経て七丈小屋へ

AM5時起床。朝食を済ませ身支度を整え6:31出発。この谷の核心部奥千丈の滝(200m)を朝日を浴びながら登高。ところどころ確保無しでは不安な部分も出てくるが概ねフリーで抜けられる。
むしろ核心は奥千丈滝上の滝群だった。もろい岩質、幾筋もある踏み跡や藪など沢登の総合的な力が試される。源頭部の詰め上りは間違えるとハイマツ漕ぎで黒戸尾根側に出てしまう。僕たちは詰めを間違えた。正解は岩壁沿いに続く最も右の谷だった。AM11:42甲斐駒山頂に到着。頂上で昼食後下山開始。七丈のテン場に着いたのは14時頃だったが今日もここで行動終了。3日目は下山のみとした。


AM6:40 奥千丈の滝入口の10m直瀑は右手の凹核を登る。
上部が高度感があり確保があると安心。


写真でよく見るトイ状。朝イチでのシャワークライミングは堪える。


奥千丈で一番いやらしい部分。フリーだとレイバック気味で越える。念のため後続にはお助け紐を出す。


奥千丈最後の滝はクラック沿いに落ち口めがけて登る。
落ち口に降りる所に残置ロープがあるがそれは使わなくても少し上で難なく降りられた。


7:27 奥千丈すぐ上に続く滝群。サクサク登れる。


概ね水流沿いに弱点有り。烏帽子沢出合の上の斜め滝はクラックを登り落石を引き起こしたので退散。
複数あったであろう滝群はまとめて右岸草付から巻道に沿って高巻く。


8:41ようやく黄連谷に復帰。しかしまたも直登困難な20m滝。右草付のバンドより高巻く


山頂が見える。


9:08 最後の大滝3段60m直下に立つ。左岸より樹林帯を3段まとめて高巻くが
途中沢に降りる踏み跡を見逃し結果としてハイマツ帯に突っ込み藪漕ぎを強いられた。


源頭部の詰め。幾筋も分かれているができるだけ岩壁沿いに行くのが正解


黒戸尾根登山道までハイマツ帯の苦しい登り


11:13ようやく鞍部に到着花崗岩の白と青空が印象的だった。
【3日目】下山 AM5:30黒戸尾根を下山開始しAM9:30竹宇駒ケ岳神社に到着した。

【まとめ】黄連谷右俣に入るまでは2級くらいの印象。高巻きのルーファイさえしっかりできていれば特に難しいところはない。右俣から最後の3段60m滝までのルートは実力に応じて登攀・高巻きの選択肢が用意されており追いつめられた感じは無い。ただ残置物(ハーケンやスリング)が多く残り間違えて使うと危険なものもあるので注意が必要。源頭部の藪漕ぎの際のルート判断は慎重にしたかった。ただ山頂へと詰めあがた時の爽快感はたまらない。(もちろん晴れていたから)真夏だと暑すぎて逆に大変かも。