2017年10月3日火曜日

【備忘録】木曽駒ケ岳・大田切川中御所谷

2年前の秋。甲斐駒ケ岳の秀渓・尾白川黄連谷右俣の遡行以来ある種”挑戦的”な遡行から距離を置いていた。この秋の山旅は、今までの視野を広げる観点とはまた別に経験を積むうえで重要な意味を持つ沢旅となった。その軌跡を備忘録として書き残しておこう。



このごろガイドの先輩方から自分の山をもっとやれとの言葉を頂く、そしてクライマーであれとの言葉も頂く。ここでいうクライマーは単に登山者ではなく岩登りを意味する。個人的にはあまり岩登りに関心はない。でも仕事、ガイドとしての厚みを増す上でも避けては通れない道、それが自分の中で”登攀”だった。

今回はあえてその登攀を多用する渓をチョイス。秋を目前に夏の終わりごろにOVCメンバーに提案。ちょっと挑戦的すぎるかなと二の足を踏みそうになったところチームメイトから二つ返事で中御所行きが決定した。ろくな準備や計画もできないままバタバタと時間は過ぎあっという間に本番当日を迎える。大丈夫かな~不安はぬぐいきれなかった。

紅葉シーズン真っただ中の千畳敷カール擁する木曽駒ケ岳。ハイカーや一般観光客で菅ノ台駐車場は早朝からごった返す。喧騒を避けひとつ前のバス停から裏ワザで楽々乗車ししらび平へ一番乗り。日が良いだけに複数パーティーが押し寄せる可能性もあるからということもあり支度も早々に日暮の滝へ足を進める。


日暮の滝までは一般ハイカーでも気軽に立ち寄れる遊歩道付き。楽々アプローチで滝下に取り付ける。ここでジャラ類を装着し沢支度。日暮の滝は遠望で2段滝というのが見て取れた。近づいてみると最初の1段目は予想以上に大きい。早速ルーファイしていると右壁のカンテに残置視点(ハーケン)が2か所確認できた。取り合えず言い出しっぺの僕がリードで登ることに。ロープをハーネスに結び付けるといよいよ本番。気が引き締まる。



日暮の滝一段目(15m)の登攀は右壁のルンゼを詰めたくなるが取りついて見ると適当なホールドスタンスが無く意外と難しい。一旦上るもムリ!と退散。結局基部からカンテを登る事に。序盤は問題ないものの滝上部で確実な支点が取れずランナウト。滝身に近づき濡れたスタンスに決まりきらない足が妙に怖く一手が本当に苦しかった。辛くも滝上に乗りあがってホッと一息。流木に支点を求めて後続を確保。なんとか3人とも無事に滝上に立つことが出来た。朝イチからがっつり登攀を強いられ早くも中御所の洗礼を受ける。振り返ってみてもこの登攀がなんだかんだで一番堪えたと皆口をそろえる。2段目(8m)はヤマピは右巻き。僕と貝山さんは右壁を直登。ここでもロープを出した。


息つく間もなくお次はCS7m滝。ここまで3段と言っても過言でもないほど短距離に滝が連続している。この滝は巻こうにも大巻で危険な感じ。Webの記録によくある右壁のルンゼ状を登る事に。ただこの登攀が日暮の登攀以上にヤラシイ!ランニング取ろうにも確実な支点は無く墜落しても支えられないであろう灌木に取るしかなく精神的に厳しい登攀を強いられる。上部は木登りの垂直藪漕ぎという始末。落ちないのが奇跡なくらい不確実な足場手がかりばかりでやつれた(泣)この3連瀑の登攀に1時間半かかった。もう往復びんた三発食らった気分です・・・。時より頭上を通り過ぎるロープウェイになんといも言えぬ違和感を感じながらまだ見ぬ源頭に思いを馳せ谷底でもがき、活路を見出す。



続くゴルジュ滝(2段10m)+宝剣滝(ナメ滝4段で60mくらいか?)は直登可能。ただ途中の20m滝だけは上部が滑って悪そうだったので左巻きで越えた。思い返せばこのあたりが唯一落ち着ける場所だったのかもしれない。ここから40m大滝までは常に緊張の登攀。
何度ロープを出したかわからないくらいロープを多用した。終盤の3段10m滝は枝沢を利用し滝上に活路を見出すも途中1歩がいやらしく先に進めない。ここはリードを登攀番長貝山氏に託し辛くも突破。あとは滝頭に向けて草付をトラバース念のため懸垂+後続はFixでトラバース。この谷最後の登攀もなんとか無事に終える事が出来た。



ラスボス?40m大滝は無理せず右岸の枝沢を詰め適当なところで巻くと大して危ないところはなく比較的小さく巻き上がれた。この谷の核心はここまで。滝上に出ると眼前に多段80m、ただ威圧的では無く空は明るく開け青空に映える白い花崗岩の稜線が見えている。南アルプスの山並みと麓に広がる駒ケ根の街並みを眺めながら昼食タイム。この絶景と達成感で格別のランチと相成った。


残りは難しいところは特になくおおむね水線を源頭まで抜ける事が出来た。ただ昼食をとったポイントから源頭まではそこそこ距離があり体力勝負。ひーひー言いながら詰め上がった千畳敷カールは紅葉真っ盛り。遊歩道に躍り出るとそこには親子連れが。驚いた表情で子供がこちらを見ていたので怪しいものではありませんと親御さんに断り記念撮影をお願いした。千畳敷はやはり人でごった返していた。ロープウェイは2時間待ち。でも歩いて下山しなくていいなら2時間くらいの待ちなんてなんのその。時間に余裕があったので体は重いが極楽平まで散歩。しっかり稜線の向こう側に広がる山並みや御嶽山の雄姿も拝むことが出来た。

ロープウェイに乗り込み下山。車窓から登ってきた中御所谷を振り返り、よーこんなとこ登ってきたわ~と我ながら感心。登り7時間、下り7分の遡行は他の山域には類を見ない行程だろう。今回の遡行そのものは短くも辛い登攀の沢だった。ロープウェイが見え隠れし秘境感は薄いものの精神力と登攀力を鍛えられたそんな遡行となった。チームワークで乗り越えた今回の登攀沢。まだまだ未熟な僕らのステップアップのひとつとしてとても勉強になった今秋の沢旅でした。翌日からは小坂でガイド。やっぱり小坂の沢は良い!これもやぱり今回の沢タビが良いエッセンスになったからこそ。



日本は広い、人生は短い。まだまだいくぞー!








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